冬眠。
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融ける月

2010-02-10 Wed 00:46


満天の星空に輝く半分の月に惹かれて、寝巻にコートとマフラーを巻きつけて外へ出た。しんと静まり返った夜はどこまでも暗く、風が吹いているわけでもないのに凛とした冷たさに満ちている。冬の夜が持つ、この独特の冷たさは、たんに表面を撫でていくような薄っぺらいものではなく、皮膚や肉、血を通して私を私たらしめている本質の部分にじわじわと這い寄ってくる。
空の高い位置にある星を追って坂道を登る。黒いアスファルトで舗装された急な坂。その傾斜を一歩進むたびに私を支える脹脛が悲鳴をあげる。足の裏から夜の冷たさが這い上がり、思わず身震いする。前に垂れてきたマフラーの一端を後ろに流し、少し冷えてきた指先を揉んで温めながら、急な坂を登り切る。予想外にきつかったため、少し息がはずんでいた。体の中心が、普段より強く鼓動し、その存在を知らしめる。送り出され戻される大量の血液の流れを想像しながら息を整える。ぐっと飲み込んだ唾液は、乾燥した空気にやられたのどに引っ掛かり、引っ張られるような痛みを訴えた。
坂を登りきったところには、暗い水を湛えた池のような空間が、車一台が通れるほどの道路をはさんで広がっていた。闇に薄ぼんやりとガードレールの白さが滲む。寒さで感覚のマヒした足の裏で、それでも道路の硬さを確かめながら、ねっとりとした濃密な闇が広がるその先へ歩を進める。人家の明かりは消え失せ、ぽつり、ぽつりと建ち並ぶ電灯の、妙に白々しい明りの他には、空に散りばめられた星と、じっと見下ろす下弦の月しかない。
どこまでも延びる道を、ただひたすら歩く。向かい風にマフラーをたなびかせ、顔にかかる髪を横にやり、月と星だけを光源に。冷たさにやられた足は、ただ機械的に前後運動を繰り返すだけで、皮膚は感触も温度も、何も伝えてこない。分厚い綿を履かされたような、そんな曖昧な感覚が足全体をすっぽりと包みこんでいる。暗さに慣れた眼は、周囲に茂る黒々とした木の存在を認識していたし、それらが囁くように揺れているのも知っている。なのに、私の耳にはどくどくと血管を走る血の音しか響いてこない。
《ねえ、どこに行くの》
気がつけば、自分の隣を誰かが歩いている。ちらりと視線を投げると、白いニットが夜風にたなびいている。
「知らない。ただ、月があまりにきれいだから」
だから、歩いている。隣の気配はそのままで、何も言わずについてくる。夜が一層濃くなったような気がして、視線を少し上にあげてみれば、薄い綿のような雲が月を隠していた。雲を透かして月の白い光が見えるけど、それは空の一部を照らし出すだけで地上にまでは届かない。
《月は隠れてしまったわ》
「でも、まだそこにある」
そういって、なおも足を動かし続ける。太ももを超えて、肋骨のあたりまで夜の冷たさがしのびこんできたように感じる。隣の白いニットを着た人は、そんな私を見て、それでもまだしつこくついてくる。そして、独り言のように言葉を投げかける。
《そう、そうね。でも、月はあなたを見てないわ》
《一人っきりで外に飛び出して、行先もわからずに、どこまで行くの》
《夜はどこまでも延びて、闇はどこまでも深いのよ》
《ねえ、底なし沼って知ってる。あれは底が無いんじゃなくて、溺れまいともがくうち泥につかまって、そのまま抜け出せなくなるのよ》
《寒くないの。ううん、寒いわ、寒いに決まってる。火傷しそうなほど寒いんでしょう》
「うるさい、黙れ」
しつこくしつこく囁かれ、ついに我慢できなくなって足をとめて振り向けば、隣をずっとついてきた白いニットの存在は、マフラーの巻き方から寝間着の種類、背丈、顔形まで私とそっくり、瓜二つの姿をしていた。驚いて目を見張る私を尻目に、私はいやに紅くてらてらと光る唇を開いて私にこう告げた。

どんなに求めたって、どれだけ歩いたって、月には触れられないって、知ってるくせに!

そういって、私は狂ったように激しく笑いだす。三日月に歪んだ口からは歪な声。三日月に歪んだ目からは沸騰した涙。声も、涙も、呼吸も、感触も、全部夜の冷たさに侵されて、最後にはどくどくと脈打つ心臓の鼓動さえ聞こえなくなり、私は私のまま、ぽつねんと夜に取り残された。
砂漠のように妙に乾ききった心で、涙の熱を残した瞳を上にあげてみた。そこにはどこまで続くのかと思われるのっぺりとした分厚い闇が広がり、あれだけ追いかけた月は、私の目の前でとろりと輪郭を融かして、そのまま消えてしまった。

+++++++++++++++++++++++++++++++
うあー、難しい。無計画に書くからか。
何かを書こうとするとき、授業で習ったことを逆手にとってやろうと思うも失敗に終わる。モチーフの持つ意味合いって、今も昔もそんなに変わらんね。
夜はすべてを隠してくれてるようでいて、たった一つの視線がすべてを見てる。世界を統括する目、月。語形が似てる気がするのは気のせいか。空の破れ目、身体の裂け目。今までもこれからも、月はすべてを見ながら黙して語らない。月の記憶は、彼の中で完結してる。目の記憶は、誰のものだろう。
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